そうか、自分はT教授のお役に立ったことがあったのか・・・。
D氏の話が終わると、男の目は自然にうるみ始めた。
過去、自分が大好きだった人のために何かしてあげたことがある。その事実でどれだけ救われることか。男はT教授にお礼を言えなかった後悔がかなり癒されたように感じた。

この男はネット上で日記を書くという習慣があった。日記と言っても、単に自分の生活を書くだけではなく(この男の日常に興味がある人は極めて少数だろう)、世の中をなるべく肯定的にとらえ、ほら、世界はこんなに素晴らしいじゃないですか、ということを伝えたいと常々思っていた。
もっとも、読む人にその方針が伝わっているかどうかは大いに疑問であったが。

この男は世界を肯定的にとらえるのだけれども、しかし、自分のことだけは肯定的にとらえなくてもいいだろうと考えていた。自己愛主義に走るのは好きではない。自分に関してだけは否定的な話を書きたい。
たとえば、この男が買ったばかりの新品の服を着て某所へ出かけたとき、「それ、古着屋で買ったの?」と言われたとか、そんなことを書きたい。
この男はそんな考えを持っていたので、自分の善行を人におおっぴらに言うのは少し美学に反してしまう。だから、男が好きな人の役に立てたことを日記に書くときはどうしても変則的にならざるをえない。

そしてそれは・・・、こんな形で日記になるのだった。

コメント

G−dark
G−dark
2006年4月9日22:13

 始めから終わりまで読みました。なんだか上質な小説を読んでいる気分になりました!(^−^) きっとT教授は「男」のことを覚えていらっしゃいますよ。
 

まむ
まむ
2006年4月10日0:16

G-darkさん、コメントありがとう。最高の誉め言葉です。
T教授は、今は静岡にいるようです。きっとそこでもファンを増やしているんだろうなあ。

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